シューベルト《Ständchen / セレナーデ》訳詞と音源のご紹介

Galleryでも紹介している音源の中から、今日はフランツ・シューベルト作曲《Ständchen(セレナーデ)》をご紹介します。
ここでは、ルートヴィヒ・レルシュタープによるドイツ語の原詩と、私がコンサートプログラムのために訳した日本語訳詞を掲載しています。

この詩には、夜の静けさにそっと紛れて、大切な人に想いを届けようとする、繊細でありながら熱い気持ちが込められています。
ささやくように揺れる森の梢、ナイチンゲールの歌声、そして心の奥底から湧きあがる願いが、やさしく、時に切実に語られていく……。
シューベルトの旋律は、そのひとつひとつの言葉を丁寧にすくい上げながら、深く心に沁みる音楽へと仕上げています。

この曲、最初はまるで忍び足で近づくかのように、ピアノがそっと始まります。
そこから少しずつ感情が高まり、最後には「来てほしい!」という気持ちがあふれ出すような、情熱的な終わり方をします。
全体を通して、“静かな呼びかけ”と“あふれる想い”のコントラストがとても美しくて、歌う側としても表現のしがいがある曲です。

声に出す一言ひとことが、恋人への願いとしてどう届くか、どう聴こえるか。
静けさの中にも芯のある想いを伝えること、そしてクライマックスでは感情が自然と高まっていくこと。
そのバランスを探しながら、演奏でも向き合ってきました。


Ständchen セレナーデ

F.シューベルト / 詩:L.レルシュタープ

Leise flehen meine Lieder
Durch die Nacht zu dir;
In den stillen Hain hernieder,
Liebchen, komm’ zu mir!

僕の歌が夜の闇をそっと通り抜けて
君へ届くことを願っている
静かなこの森を下りて
愛しい人よ、僕のもとへおいで!

Flüsternd schlanke Wipfel rauschen
In des Mondes Licht;
Des Veräters feindlich Lauschen
Fürchte, Holde, nicht.

ほっそりとした梢がささやくように
月明かりの中でそよいでいる
密告者の悪意ある耳を
恋人よ、恐れなくていいんだ

Hörst die Nachtigallen schlagen?
Ach! Sie flehen dich,
Mit der Töne süßen Klagen
Flehen sie für mich.

ナイチンゲールの歌声が聞こえるかい?
あぁ、鳥たちは君に訴えている
甘い嘆きの調べで
僕の想いを代弁してくれている

Sie verstehen des Busens Sehnen,
Kennen Liebesschmerz,
Rühren mit den Silbertönen
Jedes weiche Herz.

ナイチンゲールはこの胸の熱い想いと
恋の痛みを知っているんだ
銀のように澄んだ声で
すべての繊細な心を揺さぶる

Laß auch dir die Brust bewegen,
Liebchen, höre mich!
Bebend harr’ ich dir entgegen!
Komm’, beglücke mich!

君の心も動かされてほしい
恋人よ、どうか僕の声を聴いて!
僕は震える想いで君を待っている
来てくれ、僕を幸せにしてくれ!

出演・録音情報

この演奏は、2022年4月8日に府中の森芸術劇場ウィーンホールで開催された《リーダーアーベント ~夜と夢~》にてライヴ収録されたものです。

🎤 北嶋信也(テノール)
🎹 浅野未麗(ピアノ)
— KITAJIMA MUSIC WORKSでピアノとソルフェージュを担当しています。

夜の静けさと心の震えをたたえたこの詩の世界を、音源とともにぜひ味わってみてください。