ストロー発声法で喉が軽くなる理由

発声のメカニズムから考える、声へのやさしいトレーニング

歌や話す声に「スムーズさ」や「芯のある響き」を取り戻したい――そんなときにおすすめなのが、ストロー発声法(ストロー・イン・ウォーター法)です。
世界中の音声学・医学の分野で「SOVT(Semi-Occluded Vocal Tract)」トレーニングとして研究されており、声帯の健康を保ちながら声を整える手法として知られています。

ここでは、水を使ったストロー発声の正しいやり方と科学的な効果をわかりやすく解説します。

ストロー発声法とは?

ストロー発声法(straw phonation)は、口を完全に開けずにストローを通して声を出す発声法です。
英語では SOVT(Semi-Occluded Vocal Tract:半閉鎖声道) と呼ばれ、リハビリテーションや声楽教育の現場でも広く用いられています。

今回紹介するのは、その中でも特に効果が高いとされる「ストロー・イン・ウォーター法(straw-in-water phonation)」です。
ペットボトルなどの容器に少量の水を入れ、そこへストローを差し込み、そのまま息や声を通します。
水の抵抗によって生じる気圧変化と音響反射が、声帯の働きを助けます。

ポイントは、口腔の出口をわずかに閉じて息の流れに適度な抵抗を作ること。
この「軽い抵抗」が、声帯の振動を最も効率よく支える条件を生み出します。

ストロー発声の3つの働き

① 空気の圧力バランスを整える

ストローを水に差し込んで息を通すと、水面に気泡が生じると同時に、声道の中に穏やかな逆向きの音響圧が発生します。
日本語では「背圧」と呼ばれることもありますが、正確には「声道の中で反射した音波と水の抵抗によって生じる穏やかな逆圧力」です。

この逆圧があることで、声帯を振動させるために必要な呼気圧(肺からの圧力)が小さくて済みます。
つまり、少ない息で声が出るようになります。
結果として、声帯の摩擦や衝突の負担が減り、炎症や疲労のリスクを抑えることができます。

② 共鳴の反射が声帯の振動を助ける

ストローを通して声を出すと、水と空気の境界で音が反射し、その一部が声道内に戻ってきます。
この反射音が声帯の振動を内側から支えるように作用し、振動が安定して「まとまりのある響き」が生まれます。

これは、声帯と声道(共鳴腔)の間に音響的な協調関係が生まれている状態です。
歌唱や発声練習においては、喉に力を入れずに響きを作る感覚を養ううえで非常に有効です。

③ 過緊張をほどき、声帯の自然な接触を促す

水の抵抗と音響反射によって、喉頭周囲の過剰な筋緊張がやわらぎます。
特に、喉頭を持ち上げたり、仮声帯(声帯の上にある補助的なひだ)を使って無理に声を出している人にとっては、「力を抜いても声が出る」という新しい感覚を得るきっかけになります。

この状態では、声門(声帯の合わせ目)が自然にしっかり閉じるようになり、息漏れの少ない安定した声が出やすくなります。

声門閉鎖との関係

私自身の観察でも、ストロー・イン・ウォーター法を続けることで、声帯が後方までしっかり閉じる感覚が育ち、
結果として声門閉鎖が改善するように感じます。

臨床報告でも、SOVTトレーニングによって息漏れが減り、声帯の接触パターンが整う例が多く報告されています。
ただし、現時点で「声帯後部が完全に閉じる」ことを直接確認した研究は限られています。
より正確には、「声帯が自然で効率的に動ける条件が整う」と理解するのが妥当です。

つまり、ストロー発声法の目的は「力で閉じる」ことではなく、「閉じやすい状態をつくる」ことにあります。

実際のやり方(基本の手順)

  1. ペットボトルと水、ストローを用意する
    500ml程度のペットボトルに水を入れます。(量が多いほど圧が高くなりますので、水は1/4程度から始めるといいと思います。)
    内径3〜5mmほどのストローを使用しましょう。細すぎると抵抗が強く、息が苦しくなります。
  2. ストローを水に差し込み、軽くくわえる
    唇でやさしく押さえる程度で十分です。
    ストローの先端が水面から1〜2cmほど入るように調整します。
  3. 穏やかに息を流す
    ストローを通して「ふー」と息を出し、泡が途切れずに続く程度の軽い圧で行います。
    慣れてきたら「うー」「んー」などの声を軽く乗せてみましょう。
    無理に大きな声を出す必要はありません。
  4. 時間と回数の目安
    1回3分ほどを1日2〜3セット行うのがおすすめです。
    長時間続けるよりも、短時間をこまめに行う方が効果的です。

練習後に声を出すと、「喉が軽くなった」「息がスムーズ」「声がまとまる」と感じる人が多いかと思います。

注意点

  • 無理に強く吹かないこと。強い圧力は喉頭を押し下げ、逆に負担になります。
  • 声がかすれたり、痛みが出る場合はすぐに中止してください。
  • 呼吸器や喉の疾患がある方は、医師や音声専門家の指導を受けながら行いましょう。

ストロー発声がもたらす3つの変化

  1. 息と声のバランスが整う
    呼気のコントロールが自然に改善し、声の芯が生まれます。
  2. 喉頭のポジションが安定する
    低音から高音までスムーズに声がつながるようになります。
  3. 声帯のコンディションが回復する
    慢性的な声の疲れや息漏れが軽減し、安定した発声が可能になります。

まとめ:声帯をいたわりながら「いい声」を育てるトレーニング

ストロー発声法は、シンプルでありながら非常に理にかなった発声法です。
声帯に適度な圧をかけることで、声門閉鎖・呼吸・共鳴の3つのバランスを整えることができます。

特に、

  • 声がかすれやすい
  • 息漏れが多い
  • 高音で喉が上がる
  • 長時間話すと疲れる

といった方にとって、まさに「声のリハビリ」ともいえるトレーニングです。

何よりも魅力的なのは、喉に無理をさせずに声を育てられること。
日々の練習に取り入れることで、あなた本来の声の響きが、自然に、のびやかに戻ってくるはずです。

ストロー発声法は、「声帯を鍛える」ための練習ではなく、
声帯が自然に働ける環境を整えるためのトレーニングです。

水の抵抗によって生まれる音響反射と穏やかな逆圧が、声帯の振動を助け、
無理のない声門閉鎖を導いてくれます。
息漏れが減り、響きがまとまり、喉の力みに頼らない発声へ。
それはまさに、声が本来持っている自然な響きを取り戻す道ではないでしょうか。

この記事を見てくれた方が少しでも笑顔になれますように!