「ん」ってひとつじゃない?―日本語の“撥音”の不思議
日本語の「ん」、一見たった一文字のシンプルな音に見えますよね。
でも実は、音声学的に見るとこの「ん」、6つもの発音のバリエーションがあるってご存じでしたか?
「えっ、そんなに!?」って思った方もいるかもしれません。
でも、私たちはこの違いを無意識のうちに使い分けていて、しかもちゃんと相手に伝わっているんです。不思議ですよね。
今回は、そんな「ん」という音に隠された秘密を、ちょっと音声学の視点からご紹介してみたいと思います。
自分もこの事実を知った時には驚愕しました!!
「ん」は“鼻”を使って発音する音
まず大前提として、「ん」は鼻から音を出している音なんです。
具体的には、鼻音(びおん)と呼ばれる音で、場合によっては鼻母音(びぼいん)になることもあります。
さらに驚くことに、この「ん」の音は、後に続く音によって自然に発音が変わるんです。
つまり、1種類ではなくて6種類の発音パターンがあります。
じゃあ、「ん」ってどんな音があるの?
以下のように、発音される「ん」の種類は、後に来る音に応じて変わります。
■ [m]:両唇鼻音(唇で発音)
- 後に [p] [b] [m] が続くとき
- 例:安保(あんぽ → [ampo])、鞍馬(あんば → [amba])
■ [n]:歯茎鼻音(舌先で上の歯茎に当てる)
- 後に [t] [d] [ts] [dz] [n] [r] が続くとき
- 例:連帯(れんたい → [rentai])、散財(さんざい → [sandzai])
■ [ɲ]:硬口蓋鼻音(舌を上の硬い部分に当てる)
- 後に [tɕ](「ち」)や [dʑ](「じ」)が続くとき
- 例:珍事(ちんじ → [tɕiɲdʑi])、参入(さんにゅう → [saɲɲuː])
■ [ŋ]:軟口蓋鼻音(喉の奥の方で)
- 後に [k] [g] が続くとき
- 例:近海(きんかい → [kiŋkai])、案外(あんがい → [aŋgai])
■ [N]:口蓋垂鼻音(語末などで「ん」で終わる場合)
- 例:ペン(ぺん → [peN])、餡(あん → [aN])
■ [Ṽ]:鼻母音(鼻に抜けるように発音)
- 後に母音や摩擦音、半母音などが来るとき
- 例:懸案(けんあん → [keṼɑN])、緩和(かんわ → [kaṼwa])
じゃあなんでそんなに発音が変わるの?
これは**“同化現象”**と呼ばれる自然な発音の変化なんです。
たとえば「ん」のあとに [p] のような唇を使う音がくると、「ん」も同じ唇の位置で発音したほうがスムーズですよね。
つまり、「ん」の発音は、次に来る音に合わせて最も発音しやすい形に変化しているんです。
無意識なのにちゃんと伝わるってすごい
ここで面白いのは、私たちはこれらの音の違いを特に意識していないということ。
「てんきがいいね」の「ん」を、[m] で言おうが [n] で言おうが、意味はちゃんと伝わります。
つまり、「ん」の違いは私たちにとって意味の違いを生むほど重要ではないんです。
だからこそ、区別して聞き取る必要もなく、自然に使い分けているんですね。
まとめ
- 「ん」は実は6種類の音がある
- 鼻音や鼻母音として発音され、次にくる音に応じて自然に変わる
- 私たちはその違いを無意識に使い分けている
「ん」ってたった一文字なのに、これだけの変化を自然にこなしているなんて。。。しかも、無意識に。。。奥深い。
この知識を知った上で、実際にどのように気をつけて発音し歌えばいいのかについては、また別の機会に書こうと思います。
