なぜ「喉頭を下げる」必要があるのか?—本当の声に出会うために

声を出すたびに「もっと自由に響かせたい」「高音で喉が詰まる感じがする」「深みのある声が出せたら…」そんな思いを抱いたことはありませんか?

声楽のレッスンではよく耳にする「喉頭を下げて」「軟口蓋を上げて」という言葉。なんとなく感覚的に聞き流している方もいるかもしれませんが、実はこれは、自分の声を最大限に生かすための“身体の使い方”を示す、とても大切なヒントです。

今回は、「なぜ喉頭を下げる必要があるのか?」「どうすれば無理なく正しく下げられるのか?」という疑問に、身体のしくみと発声の実感の両面からお答えしていきます。

自分本来の響きと出会うために——まずは身体の中で起きていることを、いっしょにのぞいてみましょう。

あなた自身の“本当の声”を響かせるには

声楽における理想の響きとは、身体=楽器の構造を最大限に活かし、無理のない自然な音を響かせること。そのための基本原則は、実はとてもシンプルです。

  • 軟口蓋(口の奥のやわらかい上あごの部分)は、しっかり上げる。
  • 喉頭(声帯を含み、甲状軟骨=のどぼとけに包まれた部分)は、余計な力みなく、自然に下げる。

この上下方向の空間(軟口蓋から喉頭まで)、つまり「咽頭腔(いんとうくう)」の高さが保たれることで、声に深みと広がりが生まれ、自分だけの音色が育っていきます。

喉頭を下げると何が起こるのか?

  • 響きが豊かになる
    喉頭が下がることで咽頭腔が広がり、音がより深く共鳴する空間が確保されます。
  • 高音が安定しやすくなる
    喉頭が安定して下がることで、声帯が伸びやすくなり、振動効率が上がることで、高音が無理なくクリアに出せるようになります。
    ※ 厳密には、声帯の伸展は主に 輪状甲状筋 によって行われますが、喉頭の安定はその働きをサポートします。
  • 体全体で響くようになる
    喉頭が無理なく下がると、首や喉の過緊張が減り、身体全体が共鳴しやすくなります。発声がより自由で自然になります。

深掘り:喉頭を下げる“主役筋”——胸骨甲状筋のはたらき

喉頭を自然に下げる上で大きな役割を果たすのが、胸骨甲状筋という筋肉です。胸骨(胸の中央)から、喉頭の主要構造である甲状軟骨(のどぼとけ)に向かって伸びており、喉頭を下へ引き下げる働きをしています。

この筋肉がしっかり機能すると、喉頭が無理なく、安定して下がり、発声の土台が整います。特に高音を出す際に喉がつり上がってしまうタイプの方にとって、胸骨甲状筋の活用は非常に重要なポイントです。

頭声で重要になる「軟口蓋」と「口蓋咽頭筋」の役割

高音域(いわゆる“頭声”)の発声では、咽頭の形状が共鳴に直結します。このとき働くのが、軟口蓋を持ち上げる口蓋咽頭筋です。

  • 軟口蓋を引き上げて、咽頭奥に響きの空間をつくる
  • 高音でも広がりのある響きを助ける

つまり、胸骨甲状筋(喉頭を下げる)と口蓋咽頭筋(空間を広げる)が協調することで、声の通り道と響きの空間をバランスよく整えることができます。

「あくびの感覚」は参考になる?

発声指導では「あくびのように喉を開けて」と例えられることがあります。実際、あくびのときには:

  • 喉頭が自然に下がる
  • 軟口蓋がしっかりと上がる
  • 咽頭腔が広がる

という理想的な状態が起こります。

ただし、動作を真似しすぎると逆効果になることがあります。舌根に余計な力が入り、喉頭の可動性を妨げてしまうのです。

あくびの感覚はヒントとして有効ですが、動作そのものを真似る必要はありません

喉頭は「力で押し下げない」ことが大切

「喉頭を下げる」という目標において最も大切なのはそのです。力づくで下げようとせず、舌骨下筋群(胸骨舌骨筋・肩甲舌骨筋など)が自然に働く状態を目指しましょう。

たとえば:

  • 舌を軽く前に出してハミング
    舌根に力が入らず、発声が楽にできていれば、喉頭は自然に下がっている可能性が高いです。ハミングは舌根の余分な緊張を緩め、引き下げ筋が働きやすい状態をつくります。
  • 鏡を見ながら首まわりの呼吸を観察
    息を吸ったときに、首の中心が内側からふわっと広がるような感覚があれば、胸骨甲状筋や舌骨下筋群といった「喉頭を下げる筋肉」が無理なく自然に働いているサインです。これは、喉や舌に余計な力みがないことを示す身体の反応のひとつです。

鏡でチェック!軟口蓋と喉頭のバランス

練習時には鏡を使って身体の状態を確認しましょう。

  • 軟口蓋がしっかり上がっているか(反転したU字型になっているか)
  • 喉頭が必要以上に上がっていないか
  • 首や顎に余計な緊張が入っていないか

視覚的なチェックは、身体感覚の習得にとても有効です。

まとめ:「喉頭を下げる」とは、“響きの扉”を開けること

「喉頭を下げる」という行為は、単に位置を変えるだけではありません。

それは、自分の身体の自然なしくみを活かして、響きの空間を広げる“準備”です。

そのために大切なことは:

  • 舌根の力を抜くこと
  • 胸骨甲状筋などの引き下げ筋が自然に働く状態を整えること
  • 軟口蓋をしっかり上げて、咽頭腔の高さを保つこと

そして何より、

無理のない構えから生まれた響きこそが、聴く人にまっすぐ届く“あなたの声”です。

レッスンでは、こうした身体の使い方や響きの広げ方を、ひとつひとつ丁寧に体感しながら整えていきます。

「響きが浅い気がする」「高音で詰まる」「もっと自然に歌いたい」そんな時こそ、一度、発声の土台から見直してみませんか?

ご相談やレッスンのお問い合わせは、いつでもお気軽にどうぞ。あなたの声が、もっと自由に響くことを願って。