声の響きが変わる!軟口蓋について深掘ってみた

こんにちは。KITAJIMA MUSIC WORKS の北嶋信也です。

今回は「軟口蓋」について、私自身が日々どのように意識しながら歌っているのかをご紹介してみたいと思います。

先日、生徒さんからこんなご質問をいただきました。
「軟口蓋は、ずっと上げたまま保つものなのでしょうか?」

この問いに改めて考えさせられました。
軟口蓋を上げるのはなぜか?本来の役割を理解せずに「とにかく上げるのが正しい」と思い込んでしまうと、かえって不自然な発声につながってしまう危険性もあるのではないか――。

そんな思いから、今回は軟口蓋の働きとその役割、そしてそれが声にどのような影響を与えるのかを、声楽的な視点と解剖学的な観点の両方から整理し、ブログにまとめてみました。

「もっと響く声を出したい」「鼻にかかったような声が気になる」そんな思いを抱いたことはありませんか?

今回は、声の響きと発声に深く関わる「軟口蓋」と「喉頭」の関係について、
声楽的な視点と解剖学的な観点の両方から、わかりやすくお話しします。

軟口蓋とは?

軟口蓋は、口の奥の柔らかい部分で、いわゆる「のどちんこ(口蓋垂)」のあるあたりです。
ここが上がることで、口と鼻の通路が仕切られ、鼻への息漏れが防がれます。

その結果、音のエネルギーが効率よく口腔内を通り、鼻にかからない、はっきりとした声が出せるようになります。

✔ 鼻をつまんでも声の響きが変わらなければ、軟口蓋が適切に上がっている証拠です。

軟口蓋と喉頭のつながり(構造と動き)

私たちの喉の奥には、「咽頭(いんとう)」と呼ばれる空間があります。
これは、鼻や口の奥から喉頭にかけての広がった空間で、以下の3つに区分されます:

  • 鼻咽頭(鼻の奥)
  • 口咽頭(舌の奥)
  • 喉頭咽頭(喉頭=声帯の周辺)

これらはすべてつながった「空間(=咽頭腔)」であり、その形や大きさは、発声中にも変化します。

軟口蓋が上がると、咽頭の上部が閉じ、空気の流れが口咽頭方向に集中します。
このとき、舌根が過緊張していなければ、舌骨や甲状軟骨の位置も安定し、喉頭が自然にやや下がる傾向が生まれます。

その結果、声帯から口腔までの共鳴管が広がり、音が深く豊かに響きます。

※ただし、この喉頭の下降は個人差があり、「軟口蓋を上げれば必ず喉頭が下がる」とは限りません。
過剰な操作はかえって逆効果になる場合もあります。
軟口蓋を上げようと意識をすると、私の経験上ですが喉頭がつられて一緒に上がることがあります。

軟口蓋が下がっているとどうなる?

軟口蓋が適切に上がっていない場合、以下のような問題が起こりやすくなります:

  • 呼気が鼻に漏れて、口腔や咽頭の空気圧(内圧)を保てなくなる
  • 音のエネルギーが鼻腔側にも分散し、前方に響かなくなる
  • 結果として、声の輪郭がぼやけ、音の芯が失われる

声が「弱くなる」と感じられる理由は、まさにこの空気圧の分散と共鳴効率の低下が原因です。

軟口蓋を適切に使うために

軟口蓋を上げる動きは、強い筋力ではなく「感覚の訓練」で身につけます。
以下のような方法を試してみてください。

  • 口の奥の上の壁(天井)を、奥へそっと引き上げるような意識をもつ
  • 鼻からのどにかけて空気の通り道を“ふわっと閉じる”ように感じる
    (※「閉じる」と意識しすぎると、喉や舌に力が入りやすくなります。「ふわっと」とイメージすることで、過剰な力みを避けつつ自然に軟口蓋が挙上され、鼻への息漏れを防ぐ動きが促されます)
  • 鼻をつまんだ状態で母音(例:「あ」)を出し、鼻に息が抜けていないかを確認する
  • 舌の付け根に過度な緊張を与えず、舌が自然に口腔の下におさまるように保ちつつ、咽頭の奥行きを意識する

特に母音を発音する際は、口腔や咽頭での共鳴が大きく関係します。

軟口蓋が適切に上がっていると、声のエネルギーが効率よく前方に放射されるため、母音の響きが豊かで明瞭になります。

逆に、軟口蓋が下がって鼻に息が抜けてしまうと、口腔内での共鳴が弱まり、声の響きに深みや芯がなくなってしまいます。

また、母音の響きが不明瞭になり、発音がこもって聞こえる傾向もあります。
さらに、息の流れが鼻腔側へ分散すると、共鳴効率が下がることで聴き手には声量が落ちたように感じられることがあります。

鼻音(通鼻音)では軟口蓋を「下げる」って本当?
〜発音による例外とその意味〜

ここまで「軟口蓋は上げることが大切」とお話ししてきましたが、実は発音によっては軟口蓋をあえて下げる必要がある場面もあります。

たとえば、フランス語の鼻母音([ɑ̃], [ɛ̃], [œ̃], [ɔ̃] など)や、日本語やドイツ語、英語などで使われる鼻音の子音([m], [n], [ŋ])などがそうです。

こうした発音では、鼻に響かせること自体が目的なので、軟口蓋が下がり、鼻腔への通り道が開かれる必要があります。
つまり、これはごく自然な、そして発音上の理由があって起こる動きです。

ただし、歌の中で母音を響かせたいときには、やはり軟口蓋をしっかり上げておくことが大切になります。
軟口蓋が下がったままだと、息が鼻に抜けてしまって、声の輪郭や明瞭さが失われやすくなるからです。

鼻音のときにだけ一時的に軟口蓋が下がるのは自然なこと。
でも、それ以外の発音では、しっかり上げておくのが響きのある声づくりには大切なんです。

目的に合わせて、無理なく、自然にコントロールしていけると理想的です。

鼻音をどう響かせるか?〜「母音化」の発想

mやnなどの鼻音(有声子音)をどのように響かせるかは、歌唱において意外と奥深いテーマです。特にイタリア・オペラの伝統的な歌唱では、鼻音の子音をまるで母音のように響きを保ちながら滑らかに歌うことがよく行われています。

たとえば、ルチアーノ・パバロッティなどの名歌手は、語末の nm を「えんぬ」「えんむ」のように響かせることで、声の流れを保ち、発声としての自然さや響きの豊かさを高めているように感じられます。こうした処理は、“母音化(vowelization)”と呼ばれることもあります。

この技法は、発声の観点から見ても理にかなっていると考えられます。声楽の権威である Richard Miller は著書『The Structure of Singing』において、子音も母音の延長として響かせることが理想的だと述べており、mやnのような鼻音も共鳴を保ったまま発音することが推奨されています。

また、Thomas Hemsley や Manuel Garcia などの古典的な声楽メソッドにおいても、声の流れを途切れさせず、すべての音を響きの中に保つことの重要性が繰り返し説かれており、こうした考え方が鼻音を母音的に響かせる技術の背景にあると考えられます。

ただし、こうした鼻音の母音化が常に音楽的に「美しい」かどうかは、文脈によるところもあります。パバロッティのような歌手は、その豊かな声と表現力によって「えんぬ」「えんむ」といった語尾処理も魅力の一部にしていましたが、場合によっては芝居がかった印象や、やや過剰な情感表現と受け取られることもあるかもしれません。

つまり、この技法は単なる癖や装飾ではなく、発声と音楽の流れを整えるための一つの工夫として、ベルカント唱法の実践の中で自然と育まれてきたものではないかと思います。とはいえ、最終的には作品のスタイルや自分の声に合った表現を見極めて選ぶことが、何よりも大切です。

レッスンで「響く声の感覚」を体感してみませんか?

声は筋肉と空間の繊細な連携で成り立っています。
軟口蓋や喉頭の動きは目に見えず、感覚もつかみにくい部分ですが、正しい知識と丁寧なトレーニングで、誰でも改善が可能です。

「響きが足りない」「高音が苦しい」「鼻声っぽくなる」と感じている方は、
ぜひレッスンで実際の声の変化を体感してみてください。

一人ひとりの身体と声に合わせたアプローチで、あなたの“本来の声”を引き出していきます。

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画像は関係ないですが、私からすると喉の奥が良く空いた口にしか見えません笑

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。